「さて、かの『勇ましいバカ』と呼ばれた方に請われまして、私と教授との対談によるゼミがGAIAへ出張とあいなりました。今回は初心者の方でも分かり易いように対談をそのまま文字に起こすということですが、そのことについて、元中東の傭兵で、しかも書道三段でもいらっしゃる教授は、どう思われますか?」
「…………」
「どうしたんですか、教授? 顔色、悪そうですが」
「……昨日、ボルネオの戦友と意気投合して呑み明かしたからな。見てのとおり、――立派な二日酔いなんだよ」
「そ、そうですか……」
「つうかよぉ。大体、何でこの俺が、てめぇひとりじゃ右も左も分からねぇ【放送禁止用語】な文盲のためにご足労を請われなくちゃならねぇんだ」
「そんなことを言ったら、GAIAの小説家も読者も、まるで文字すら読めないみたいじゃないですか。そもそもこのゼミをやることになったのも、教授の友人さんが大学の校門を爆破して逃走した事件で、損害賠償を請求されたせいでしょう?」
「野郎、いつか見つけたらバラして晒して腸(ワタ)流す」
「……」
「うっく、気持ち悪ぃ。それにしても、このずっと上の方に掲げられた【コラム】って題名は、おかしいんじゃないか?」
「いきなり真面目な論題ですね」
「とりあえず貰った金のぶんだけは、ちゃんと仕事しないとな。【コラム】っていうのは、もともと新聞や雑誌などの片隅に載っている囲み記事、とりわけ短い評論であることが多いんだが、いったい、このゼミのどこがコラムなんだ? おい?」
「ええと、昨今の言語文化においては、言葉が間違った意味で使われているような、例えるなら汚名挽回などのような形容矛盾したものが間違ったまま受け入れられてしまう風潮が特に顕著に見られますからね。細かいことは気にしないほうがいいですよ。まさか、教授はそんなことにまで怒っていらっしゃるのですか?」
「どうして俺が怒らなくちゃいけねぇんだ? 既存の言葉に新たな意味が付加されたり、まったく新しい言葉が作られたりするのは、その言語が、その使われている地域の生活様式に伴って絶えず変化しているからで、当たり前のことだろうが。事実、学会以外では殆ど使われることのないラテン語は、化石化しちまってかれこれ百年以上も変わっていないじゃねぇか。学説が今でもよくラテン語で書かれたりするのも、つまりはラテン語が変化の少ない言語だからなんだよ。いちいち言葉の定義が変わっていたら学者も大変だろ? そう考えると、日本語も、まだまだ実用に足る生きた言語だってこったな。なぁ、しっかりしろよ、おまえのほうこそ大丈夫か? まさか二日酔いじゃないだろうな?」
「そんなことあるわけないじゃないですか。第一、私は下戸です。とにかく、教授としては、コラムという言葉を冠するのは気に入らないというのですね?」
「そうだな。加えて言えば、俺は教授で、これは公聴会と同時にゼミナールの形式を取っている。ゼミナールという名のとおり、研究と発表、それに対する討議が重要になってくる。というわけで、用意周到な俺が、コラムの下に内容を補正するためのコメント欄を準備しておいたぞ。文句があるってんなら掛かってこい。無論、俺に勝つというのなら、ちゃんとした情報ソースや根拠を、それこそアインシュタインばりに理論立てて並べないとならんがな。感情に任せてピーピーうるせぇ奴や、『そんなことは意味がない』などと一知半解のくせして断定する奴ぁ、微生物程度の認識しかしていないってこったから、そのつもりでいるんだな」
「教授、あいかわらず毒が入っていますが、ここは別に勝敗を決しようという場ではありませんよ」
「あ、そ。ふむ。ところでさっきの題名の件に戻るが、胸にキュンとくるやつを、この俺が二秒も費やして考えてやったぞ。【教授とその不愉快な下僕が送る、三分間バッシング】なんてのはどうだ?」
「ふ、不愉快な存在だったんですか、私!」
「近親憎悪というやつだ」
「……とりあえず、お題はコラムのままでいきましょう。コラムでしたら、内容のまとまりごとに分けることができますし」
「まぁ、それでいいか」
「ところで、最初の議題は【プロット】だそうですよ」
「あれか。小説初心者のうち、実に九割八分が、その存在を知らないか、あるいは忘れっちまってるやつだよな」
「いちいち非難するようなことを仰らなくてもいいじゃありませんか。このコラムを機に文学を志す方々のためですから」
「まぁな。たとえ馬耳東風でも、このゼミの受講者が増えてくれれば、コラムの表示回数が増えて、追加の受講料も貰えて、いずれはギャンブルも解禁になるかもしれないからな!」
「先に借金を返してください!」
注釈:彼らの前回の話しに関しては
象牙の塔 『GAIAの若い小説家に捧げる言葉』
を参照してください。
「プロットというのは、小説のあらすじのことです。例えば、先の序文のやり取りをプロットにしてみると――
と、こんな感じになるわけです。この一連の、時系列に沿って書かれたあらすじのことをプロットといい……」
「Stohhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhp!!」
「な、何ですか、教授? いきなりHGよろしく叫ばれても困ります」
「アホか、おまえは! そんな話し方と論理展開で、小説の『いろは』も知らんド素人に理解できるはずねぇだろうが。おまえ、本当に俺の生徒だったのか? このド低脳が!」
「で、では、どうすれば、初めての方でも簡単にわかるような教え方ができるのでしょうか?」
「ったく、耳の穴かっぽじって、よーく聞いておくんだな。例えば、だ。おい、ちょっと『桃太郎』のお話を聞かせてくれないか」
「……昔むかし、あるところに、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。さて、お婆さんが洗濯をしていると、川上のほうから、どんぶらこ、どんぶらこと、それはそれは大きな桃が流れてくるではありませんか。(中略)桃太郎は、宝をみんなで分け合って、お姫様とも結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……。これでいいですか、教授?」
「ちょっと、といっただろうが。(中略)せずに簡潔に説明せい。ところでおまえは、小さい頃、綺麗で優しくて(中略)なママンに桃太郎の絵本を読み聞かせしてもらったことがあるよな? 今語った内容は、そのときの絵本と一字一句同じだったか? ……まさか、そんなことがあるはずないよな。よほどの俺のような超人でもない限り、絵本に出てきた言葉のひとつひとつなんて正確には覚えちゃいないはずだ。ではどうして、おまえは桃太郎の話を語って聞かせることができたんだ?」
「分かり易いからです。具体的には――
といったふうに、ストーリーをできる限りまとめた結果抽出される『小さな内容』が、正確かつ簡潔に記憶されているからです」
「もう分かっていると思うが、その『小さな内容』こそが【プロット】だ。これを骨組みにすれば『昔むかし』の代わりに『遥か昔、遠い銀河で〜』と切り出してみても問題ないわけだよ。ま、ジョージ・ルーカス映画関係者から抗議がきても知らないけどな。さて、それに加えて『小説から抜き出される小さな内容は、作品世界の時間と空間とに矛盾しない』というのも注目すべきところだ」
「確かに『昔むかし、あるところに』って始めておいて、いきなり『惑星ナーヴに危機が迫る』と繋がると、時間的関係においても、内容においても矛盾、明らかにおかしくなりますね」
「うむ。そこまで大きな食い違いでなくても、小さな食い違いが少しずつ出てくれば――例えば、最初に主人公が一人っ子であると言っときながら、あれよあれよという間に妹やら姉やら双子の片割れやらが出てきたりしたら、ちゃんちゃらおかしいだろう? そういう小さな矛盾の積み重ねが、ストーリーの面白さを半減させるんだ。だけどよ、悲嘆する必要はねぇ。先にも言ったとおり、そもそも矛盾を作らなければいいんだよ。先ほどの例でいうと、ハーレムが形成される前に、主人公には隠れた親族がいることをほのめかしておけばいい。このような小説の技巧を『伏線』というんだが、これについてはいずれ詳しく説明するとして、とにかく、矛盾を――いわば『ボロ』を削ぎ落とすことこそが、プロットを練るという作業の大部分を占めているわけなんだよ」
「初心者にとっては確かにそうですが、ある程度書き慣れた中級者になると、プロットはまた別の意味も持ってきますよね?」
「それは、そうだな。おまえらがよく読むハガレンやデスノートが面白いのは、ちゃんとした『プロットを練る作業』に上乗せして、どんでん返しを演出してみせたり、読者の意表を突く意外性を盛り込んでみせたりした、少し手の込んだ『プロットを発展させる作業』がなされているからなんだよ。無論、初心者のうちは必ずボロが出るものだから、初めから欲張って小手先の技にまでこだわるのは、お勧めできないやり方だけどな」
「そのとおりですね。ありがとうございました。さて、ここまでの講義内容をいったんまとめさせて頂きますね。つまるところ、
プロットというのは、初心者のうちは『話を矛盾なく進めるためのもの』で、中級者になってくると『物語に面白みを加えるためのもの』 なんですね」
「そういうこった。ただ書きたい衝動に突き動かされて書くのもいいけどな、読者が読んだらどう思うのかってことを念頭に置いてプロットを作っておくと、話の内容も自然と読みやすくなって、よりいっそう面白い作品になるんだよ。反対にプロットも作らずに調子に乗って書いていると、読み難くつまらない作品になる。つまり、プロットを作るのと作らないのとでは雲泥の差があるんだな。まぁ空に雄大に浮かぶ雲と泥を比較したらまったく持って失礼千ば」
「これで公聴会は終了ですね。では次の講義までお待ちください」
参考資料
プロットの書き方って?
「関係ない話だけどよ。お前が大学のサークル棟で社会科の女の子と乳繰りあっていると、哲学科の落合さんから聞いたんだが、本当なのか?」
「私が公衆の面前で恥ずかしい行為をするはずがないじゃないですか」
「本当に彼女いないのかぁ? おまえに? 嘘臭ぇなぁ」
「さて、前回に引き続いて二回目のゼミ兼公聴会となったわけですが、反響の方はどうなのでしょうかね?」
「そんなもん知るか。いちいち話を聞きに来ている奴らにビビっていたら、何も出来やしねぇだろうが。こっちからわざわざお伺いを立てようってのか?」
「しかし、私たちに対する評価は、やはり真摯に受け止めないと……」
「あのなぁ。おまえが文章を書くのは何のためよ?」
「単位のためです」
「……」
「あの……何か?」
「いや、やっぱり俺の血を引いているだけあると思ったぜ。まぁ、普通、文章っつーのは、自分の考えをまとめて、それを発表するためのものだ。つまるところ、巷に溢れかえった文章は『筆者の自己満足』のために書かれるモノであって、読者は二の次になっていると俺は思う。だから、読者からの評価で『筆者が反省し、欠点を改善しようとする』のは普通だとしてもよ、読者の言葉をそのまんま鵜呑みにするのは、ちょっと違うんじゃねぇか? おまえの言い方だと、まるで視聴者の人気ばかり気にしているどこかのあざといアニメ監督みたいに、売れ筋だけを連発していたいように聞こえるぞ」
「【自主規制】大戦ですか?」
「それ以上言うと、一部の熱狂的な、宗教じみた信奉者に襲撃される可能性があるから止めようぜ、な?」
「そうですね。さて、これで【読者の読みたい作品=作者の書きたい作品】という命題は必ずしも真でないこと、そして、作者は感想に過剰反応する必要がないこともわかりました」
「ちなみに言っておくが、明らかに文法上の間違いを犯していたり、物語としても破綻したダメな作品を連発しているというのに、【蚊帳の外=内輪以外の人間】からのダメだしにはいっさい見向きもしないような奴には、自然と【蚊=読者】も寄りつかなくなってくるがな。そのあたりは、常識的な判断で作者がなんとかしろってこった」
「(この人の口から常識を語られてもなぁ)……自然淘汰とは厳しいモノですね。では、ここらで本筋に戻しますが、今回のテーマは【テーマとは?】だそうです。テーマがテーマ。ちょっと混乱しちゃいますね」
「テーマ、命題、すなわち『物語の中で変化させるもの。』以上、講義終了。解散」
「……」
「……」
「……あの、終わりですか?」
「あぁ。これ以上、どうまとめるってんだよ?」
「い、いえ、もう少し解説を加えたほうがわかり易いかな、と思うのですが?」
「ったく、おまえら雁首揃えて、いったいなにをしにきてるんだよ? 解答を知りたいだけなら、別にこんなところ来なくったって、市販の問題集でも参考書でも読めばいいこったろ? 勉強っつーのは【自分で考える力を養うこと】じゃねーのか? なんでもかんでも訊いてたら、おまえらにとってなんの得にもならねぇーだろうがっ!! このド阿呆。どうしても教えて貰いたいんならな、考えても調べてもわかりませんでした、御免なさい、バカなので教えてください、くらい言ってみろ!! だからおまえにゃ彼女がいないんだよ!!」
「関係ないですよ!! 彼女くらいいますよ! こんな私でも!」
「なんだ、やっぱりいるじゃないか。じゃ、今日、ウチに連れてきてくれ」
「(だ、騙された)……コホン。ええ。さて、教授は先ほど、テーマは変化するものだと仰いましたが、なにかいい具体例はありますか?」
「例えば。ファンタジーの場合、テーマはさしずめ『世界の平和』といったところだろう」
「なるほど、悪鬼妖魔が跳梁跋扈する『混乱』を鎮め、王政に統治された『平和』を獲得する、といった具合に、ですね」
「これが高校生たちの胸キュンで甘くトキめく青春小説なら『成長』だろうな」
「この場合は『子供』から『大人』への変化ですね」
「これがSFの警鐘モノなら『テクノロジーの危機』だな」
「教授、いま挙げたSFでは、どこが変化しているのでしょうか? テクノロジーといっても、作品世界でそれが既に当たり前となってしまっていたら、それは変化でもなんでもない気がしますけど?」
「アホか、それを読んでる読者こそが、そのSFを読んで、テクノロジーに対する『認識』を新たにするだろうが」
「なるほど、変化は作品の中だけではなく、読者にも起こりうるんですね」
「そういうこと。ちなみに、読者の――人の考えを真面目に変化させるような話は、俺が見た限り、純文学に多いな」
「ライトノベルや大衆小説は、どちらかというと、物語の中での変化が目立ちますね」
「それはわからないぞ。最近はライトノベルにだって、なかなかバカに出来ないレベルの作品がけっこうあるからな。無論、一方では『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪』なものやら、テーマだけじゃなく文体さえ変化しているワケの分からない驚天動地のものもあるがな」
「相変わらず、毒が入ってますね。ところで、私はないと思うのですが、そもそも変化のない作品なんてありえるのでしょうか?」
「変わるものと変わらないものがなかったら、どうやって『変化』を比較するんだよ? 人間なんざ、しょせん比較しないと物事を認識できない生き物なんだから、しようがねぇだろうが。やはり、確固たるテーマの変化はないにしても、時間の経過に伴った変化は、どんな作品にも少なからずあると思うぞ。まぁ、その程度の作品なら、わざわざ金出して買わんでもそこらじゅうに落ちているな」
「ありがとうございました。ここらへんで、今回のコラムは終了させていただきますね」
「そうだな。じゃ、とりあえず今日はウチにおまえの彼女を連れてきてもら……って、もういねぇのかよ! おぃ! 音速エスケープかよっ!」
参考資料
テーマをいかようには発するか
「どうも、懲りもせずゼミ兼公聴会の第三弾となりました。例に因って例の如く、進行は私で解説者は教授となっております。教授、宜しくお願いします」
「俺、今日は適当に本読んでいるから、お前がこのカンペ読んで進めてくれ」
「…………今回は一段と投げ遣りですね。ところで何を読んでいるのでしょうか?」
「ホメロス著、エディプスを原文でな。稀少本だからスゲェ高かったんだぜぇ」
「(ギリシャ語読めるんですか。流石教授)……えー教授から委任預かりましたのでこのまま進行を進めてみたいと思います。今回のテーマは【よくある話はダメなのか?】です」
「ダメだろ」
「一秒で結論ですか。と言うか私が勝手に進めて良かったのでは?」
「いや、よくよく考えたらさ、ここにいるだけだと俺が仕事したことにはならないだろう。するとあの目敏い学部長のことだ、また給料減らすとか言い出しかねないぞ。くそ、あのファッ●ン禿め」
「……」
「まぁ、とにかく、よくある話、つまりベタなのはダメだとしても俺は王道は悪くないと思うぜ」
「……? 王道もベタな話も同じ代物ではないですか?」
「まぁ、大した差はないように見えるが、俺は分けておきてえな」
「それはまたどう違うのでしょうか? 両方とも、作者の意識するとしないとに関わらず、既成の話を下敷きにしているという点では同じように見受けられますが?」
「そうだな。こいつは俺の分け方だが
王道は様式(スタイル)を真似るもの
ベタな話は要素をパクるもの
だと定義してみるか」
「要素とスタイル、つまり、部分と全体の差ですか」
「おぅ、その通りだ、ってカンペ読んだのかお前」
「ええ、このカンペによれば、【ベタな話】が部分の集合で、【王道】が全体を透かして取り込んだもの、と書いてありますね」
「そうだな。ちなみに言っておくが、こいつぁ俺の勝手な考えだから反論は大いにあって構わんさ」
「えっと、こちらのカンペにはこの間の桃太郎が参考にされていますね」
要素
おばあさんとおじいさんが暮らしていた所に、
おばあさんが洗濯中に大きな桃を拾い、
その桃から生まれてきた子供が桃太郎と名づけられ、
後に犬、猿、雉(きじ)の配下を引き連れて鬼退治に向かって、
そして、鬼達を倒してしまう。
スタイル
特殊な生まれの者が活躍する勧善懲悪劇
「完全超悪劇?」
「馬鹿かお前は? 善を勧めて、悪を懲らしめる物語をそういうんだよ」
「(カンペの通り読んだだけなのに……)見た所、要素とスタイルはだいぶ違った形ですね」
「そりゃそうだろ。スタイル、王道の話で言えば、特殊な生まれを持つ主人公が悪党やらライバルやらを倒すってのが話全体の流れとしては多いだろ? それこそ金太郎や坊ちゃんだってそうだし、デビル●イクライだてそうだろ?」
「(なんでそこでダ●テが出てくるんですか)」
「だが、そのまま要素を作品に混ぜてみると、途端に劇薬よりもヤバイ効果を発揮して時にパクリそのものまで貶めてしまう」
「なるほど、えぇっと、カンペにはよくある話の失敗、要素の挿入の例なんてのもありますね」
おばあさんとおじいさんが暮らしていた所に、
竹から生まれた子供がなよ竹と名付けられ、
たまたま浜辺で苛められている亀を助けた結果、
ひょんな事から狼に襲われていた三匹の子豚の兄弟を連れ、
全員で鬼退治をして、
月に帰りました。
「……何だか、やって出来なくもなさそうで、逆に面白い気がするんですけど?」
「こいつは極端にやった結果だから目新しさでも出来たんだろう。でもストーリーに一貫性があるわけでも無し。たぶん書けばチグハグとした形になるだろうよ」
「では逆にスタイルはどうなるのでしょう?」
「スタイルだけで言ったらそれこそいっぱいある。例えば、今俺が読んでるこのエディプスは推理小説で言うところのWhodunit(フーダニット)、略さずに言えば、Who did it? 誰が殺ったのか? 形式の悲劇だ。まぁ、まだ読んでない奴には悪いが、身近で意外なところに犯人が居たっつー典型的な話だ。だがこれと同じ話の様式、話の筋とオチと言い換えてもいいかもな、そんな同じスタイルの話と言うのは意外と多い。有名なところで言うと綾辻行人のある作品なんかはエディプスとまったく同じギミックで話を消化している。まぁ、話が神々の下した気紛れな悲運なのか、計画的殺人なのかの違いはあるがな」
「つまり犯人は『 』でしたってオチですから、王道と言えば王道ですね。でも、二千年以上前の話が現代の推理小説に続くと言うのは新鮮ですね」
「そうでもないさ。全体を俯瞰する視点があれば、あれとこれが似た様式で出来てるなんてのは意外と分かるものさ。ただ、物語の舞台や設定、登場人物などによってそいつが覆い隠されてしまう。それが作者の『上手さ』と言い換えてもいい。スタイルは何かを下地としていても、設定や流れの組み換えなんかしてしまえば、そいつは作者のオリジナルのストーリーになっちまうのさ」
「なるほど使い古された様式だとしても、それを上手く作者が調理してしまえばそれは新しいものに生まれ変わるわけですね」
「そう言うこった。また王道の様式を読者に透かして見せることでミスリードをさそう事も出来る。盛大に話を掻き混ぜたりするのは近年だと西尾維新とかよくやっているんじゃねーか? まぁ、キャラクターの構成要素としては面白いが、全体として見るとイマイチな箇所も多いと俺は感じるがな。そして、逆に注意をしなければならないのが――」
「要素だけの挿入ですか」
「そうだ。無意識にやればただの自分以外の作品から取り入れたパクリにしか過ぎなくなってしまう。まぁ、意図的にやればオマージュやパロディの一環として逆に褒められる部分があるかもしれないが、その辺りは作者の調理加減次第。入れ過ぎればパクリ、少なければスルーと危ない道を辿るわけだから、よほど受けるだろうと言う確信の無い限りは止めておいた方が身のためだな。よくよく素人が恋愛小説なんか書くわけだが、こー言ちゃなんだが、どれも似たりよったりだな。最近の流行は片思いと恋人になって確か死んじまうのが多いか? まぁ、若いから人生経験が少ねぇのがイカンのだろうな。少しは俺を見習って恋愛をたくさんするこったな」
「それは護衛の立場を弁えずに一国の王女に手を出して、某国で国内手配を食らうような恋愛をしろって事ですか?」
「『盗んだのは貴女の心です』なーんてな。この台詞を言った後に母ちゃんにバレてビンタ食らったのも良い思い出だ」
「皆さんは浮気はしないでくださいね?」